目を開けると
そこにいたのは
覚悟を決めた表情の彼がいた
信じるもの、その先に-43-
「岳人…!?」
侑士の拳を止めたのは岳人だった。
真剣な顔。
そして、どこか覚悟を決めた顔をしていた。
「侑士、の言ってることは間違ってないぜ。」
「何やて?」
「俺は俺で決めたってこと。」
「岳…人…?」
答が…出たの?
少し間をおいてぐっと顔を引き締めた。
でも、私は何も言わない。
これは侑士と岳人の問題だから。
私が手を出すことじゃない。
「まだ何がただしとかってわかってないけど、今侑士がこいつを殴るのはおかしいんじゃねえの?」
「じゃあ、こいつが美鈴を虐めたこともおかしいんとちゃうか?」
「それが事実だったらな。」
「…っ!」
私も侑士も驚いた。
私が美鈴を虐めてない…ってわかったの?
「そう美鈴が言ったんやから事実やろ?」
「じゃあ、俺らが今まで知ってたは何だったんだ?」
「え…?」
思わず言葉がでた。
岳人がこんな言葉を口にするとは思わなかったから。
「今までの…?」
「3年間一緒にいたより最近来た美鈴を信じるのかよ?」
今の言葉…。
最初のジロちゃん…?
あれ…?
じゃあ、さっきの言葉も…。
「ジローと越前の受け売りだけどよ、大切なのはこれだろ?」
…やっぱり。
小さく笑って岳人の肩を軽く叩いた。
「そうね。それがわかれば他のこともわかるかもしれない。」
侑士を真剣な目で見つめた。
「侑士、私もまだわからないことは多い。殴られても仕方ないことだってあるかもしれない。でも、わかってることから考えなきゃいけないってことはわかっているわ。」
「…。」
「侑士が正しいと思う道を進んで。」
それだけ言って私はタオルを干しに向かった。
多分岳人もすぐコートに向かうでしょう。
籠をおいてふう、と息をつく。
「岳人、もう大丈夫?」
「…!ジロちゃん…!」
「さっき見たら岳人、吹っ切れた顔だったから。」
タオルを一枚干して、頷く。
「岳人、迷ってたわ。でもね…いろいろと私に教えてくれたの。私が迷っていることも。」
「そっか。」
「うん…。部室前の侑士と岳人、見た?」
「見たよ。ちゃんが殴られたときに出ようかと思った。でも岳人が出てったからやめた。」
「その時の岳人、止めることに迷いがなかった。」
「止めることに?」
「えぇ。他にはまだ迷ってるみたい。」
「へぇー。」
タオルを干しながら私たちは話す。
岳人は迷ってる。
でも殴ることはおかしいと言った。
これは…多分答が出てるんだと思う。
出てるけれど確信できない。
こんな感じかな。
「でも岳人に何があったんだろうねー。」
「…どういうこと?」
「岳人が何で疑問を持ったんだろうってこと。」
珍しい。
ジロちゃんがこんなことを口にすることが。
でも理由はわかる気がする。
岳人はずっと美鈴側だったから。
私は隠すことなく話すことにした。
「この前、私咲人のお墓に行ったの。その時に岳人に会ったのよ。」
「何か話してたの?」
「咲人とね。それを聞かれちゃったみたい。」
「だから岳人は疑問に思ったんだ?」
「多分ね。」
「その時から岳人はちゃんの言葉を聞き始めたってことだね。」
「…あ。」
本当だ。
全く気付かなかった。
私の言葉を聞かなきゃ岳人はこうならなかったんだ。
何かそれが嬉しくてクスリと笑った。
「このまま侑士たちが気付いてくれるといいのにね。」
「自分で言わな…いよね。ちゃんは。」
「うん。自分で気付いてもらわなくちゃ救えないから。」
タオルを干し終えて、ジロちゃんの方に体を向ける。
「私だって誰かに教えられることはあるし、そこから気付くことなもある。だから何もしないわけではない。でもね、私は核心的なところは教えない。そこは…自分で気付かなきゃいけないでしょ?」
ジロちゃんも、チョタも、若も、雅治も、比呂士も、弦一郎も、蓮二も、ブン太も自分で気付いた。
ジロちゃんや、若、、精市は少し違うけど…。
皆、何かしら言った。
何かしら言葉を与えた。
それで気付いた。
だから…侑士、亮、萩、景吾、崇も気付いてくれるはず。
今の私に言えることは少ないかもしれない。
でも侑士には岳人、亮にはチョタがいるように誰かがついててくれるんだ。
「ジロちゃん。」
「んー?なぁに?」
「岳人に何を言ったかはわからないけど…これからも私や侑士たちにも同じことしてくれる?」
「もちろん!」
にっこりとジロちゃんは笑った。
私もつられて笑う。
合宿までに岳人が答を出してくれるといいな――――。
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