合宿でも大丈夫。
私は1人じゃない。
でも―――
信じるもの、その先に-42-
あれから2週間。
いつものように仕事をしていると部室の扉が開いた。
「…。」
「…岳人…ッ!?」
ジロちゃんが来たと思った。
でも入ってきたのは沈んだ表情の岳人。
テニスに力が入りませんって顔をしている。
私は今から干そうと思ってたタオルの籠を置いて岳人の方を向いた。
「どうしたの?」
「あのよ…今…いいか?」
「いいよ。座ったら?」
私も岳人もソファに座る。
きっと岳人は迷ってる。
だったら…私は強くいなきゃ。
「2週間くらい迷ったんだけどよ、いろいろ聞きてぇんだ。」
「答えられるものは限られるけどそれでもいい?」
「あぁ。」
何か嫌な予感がする。
この前の景吾みたいに咲人のことを聞かれそうな…そんな気がする。
そんな不安を隠して岳人の言葉を待つ。
「とお前が話してた後、お前俺に言ったよな?『割り切らなきゃ何もできない』って。」
「えぇ。」
あの時思わず言ってしまった本音。
ジロちゃんやにではなく岳人に言った本音。
のことは割り切らなきゃ誰も救えない。
確かに言った。
でも…それができない。
割り切ることができない。
すごくショックで、哀しいことだから。
「でもお前、割り切れてないだろ?」
「…っ!」
「何となくだけど…そんな気がする。でもそれでもいいんじゃねぇ?」
「え…?」
「ショックなことはショックなこと。哀しいことは哀しい。そういうのいちいち割り切ってたらキリねぇだろ?」
「でも、それをしたら誰も…私すら救えない。」
「そんなことねぇ。逆にそっちのが救えると思う。」
「…。」
「辛いことがあるから、一緒に乗り越えて、救えるんだろ。のこと割り切ってたらお前もも救われねぇよ。」
「一緒に…乗り越える…?」
「あぁ。」
「…そうね。」
確かにそうかもしれない。
割り切ってたらキリがないし、割り切れないこともある。
だったら一緒に乗り越えたらいい。
…それが救いなの?
でも…
「何で…?何で岳人はそれを私に…?」
「気になったんだよ!その言葉だけが気になったんだ。そしたらテニスできなくて言いに来たんだよ。」
「でも岳人は…。」
「わかんねぇよ。」
美鈴が正しいと思ってるんでしょ?
そう聞こうとした。
でもそれは言葉にできなくて、でも岳人は答えてくれた。
わからない…?
侑士と同じくらい私を嫌ってた岳人が?
「墓でお前の言葉聞いてわかんなくなったんだよ。何が正しくて何が違うのか。」
「それは…私も同じよ。」
私も正しいことなんてわからない。
でも自分の信じる道を進んでる。
そうすることしかできないから。
「岳人がどうしたい、とかどうなるか、とか私にはわからない。でもね岳人は岳人の道を進むしかないでしょ?」
「俺の道…。」
「私はいつもそう。自分の信じる道だけそ進んでる。」
そう言って立ち上がった。
今の岳人にはこれ以上言っちゃだめ。
これ以上言ったら余計わかんなくなると思うから。
「!」
「…っ!何…?」
「ありがとな。絶対答出す。」
「…うん。」
部室を後にする。
扉を閉じたと同時に息をつく。
岳人が名前を呼んでくれた…?
ずっと苗字や『お前』だったのに。
びっくりした。
でも嬉しかった。
岳人は大丈夫かな。
あの子なら合宿までにはどうにかなりそうね。
「岳人に何吹き込んんでん。」
「…侑士!?」
今の…聞かれてた…?
いや、部室は防音。
扉を開けて聞かない限りは聞こえないはず。
「何吹きこんだんや?」
「別に…。」
ぐっと胸倉を掴まれた。
それでも私は動じない。
侑士は私の言葉を聞いてくれない。
だから何も言わない。
「お前のせいでレギュラーがバラバラや…っ!」
「…皆自分の信じる道を進んでるだけよ。」
「何やて?」
「そうでしょ?私は何もしてない。彼らが決めて彼らが動いたのよ。」
「でもお前が何か吹きこんだのは事実やろ?」
「私は聞かれたことを答えるだけ。決めるのは岳人たちでしょ。侑士だって景吾だってそう。決めるのは誰だって自分よ。」
すっと侑士の手が離れた。
それとほぼ同時に飛んできた侑士の手。
それと同時にほぼ同時に飛んできた侑士のもう片方の手。
また殴られる…!?
バキッ
一発、頬を殴られた。
「…っ!」
「お前は黙っとけばええんや。」
冷たく鋭い目。
もう一度飛んでくる拳。
ぎゅっと目を閉じた。
パシッ
「…え?」
誰…?
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