あいつは今まで何をしていた?
俺は・・・どうしてた?
あいつの言葉は・・・?
信じるもの、その先に-38-
俺はただ側を通っただけだった。
墓に用事はないけどその奥の寺に用があったから通っただけだった。
なのに・・・。
何でそこの墓にがいた?
何で泣いていた?
「・・・でもね、私が一番笑っていたいのは氷帝の皆の側なの。」
・・・!
寺に向けていた足を思わず止めた。
俺たちの・・・側・・・?
「大丈夫。私は独りじゃないから。」
・・・そうだ。
あいつは独りじゃねぇ。
越前もジローもいるじゃねぇか。
なのになんでそんな独りみたいな言葉に聞こえるんだ?
何でそんなに寂しそうなんだ?
「くそくそっ!」
何で俺は寺に行こうとしない?
何でここでの言葉を聴こうとする?
しばらくそこに立っているとともう1人、女の人があいつの側に来た。
あいつとは仲がいい。
ずっと俺らと笑ってたからわかる。
2人の笑顔は純粋だったんだ。
なのに・・・今の2人はすごくよそよそしい。
笑っても前と違う。
女の人がいるからじゃねぇ。
でもそれを聞こうとは思わなかったから。
その理由がわかったから。
はあいつの記憶だけを失くしたんだ。
跡部がそう言ってたのを思いだした。
侑士、確かこう言ってたな。
「あいつからイジめられたから辛いのを根元から消したかったんやろ。」
でもこれだけは違うと思う。
あの2人は何の裏もなく純粋に笑ってたんだぜ。
あいつがをイジめてたとは思えない笑顔だった。
「・・・スイトピーの花言葉聞いてから喋らなかったね。」
の言葉が優しい。
これを聞くと尚更イジめてたとは思えねぇ。
けど・・・美鈴はどうなる?
は人をイジめるような奴じゃねぇ。
優しいだ。
でも美鈴は言ったんだ。
「何で入ってきたの?必要ない。」
そう言われたって。
がそんなことを言うか?
だけどあいつはそう言われたと言った。
傷もあった・・・!
それが証拠じゃねぇのか・・・!?
だから俺はあいつを敵としてたのに。
「・・・・岳人?」
「・・・っ!」
考えていたら見つかった。
・・・・違う。
俺は動けなかったんだ。
本当のあいつを見て、
以前のを見て、
動くことが出来なかったんだ。
「もしかして・・・聞いちゃった?」
素直にうなずく。
「・・・そう。」
「ごめんな。」
「え・・・?」
「話、勝手に聞いちゃってよ。」
今までのことは謝らない。
俺が正しいかもしれないし、あいつが正しいかもしれない。
だから話を聞いたことだけを謝る。
「別に構わないわ。聞かれて困るものではないし。」
「そ・・・そうか。」
は迷うこともなく喋る。
だから少し怖かった。
多分それは俺が迷っているから。
一番迷ってると思っていたあいつが迷うことなく喋るから。
内心びくびくしながらそれを表に出さずに口を開いた。
「なぁ・・・って・・・。」
「記憶はないわ。私のことだけ・・・ね。」
「・・・そっか。」
「私が一番わかってるわ。あなたたちも聞いたんじゃないの?」
「そうだけどよ・・・確認したくて。」
の表情がほんの少し暗くなった。
・・・こいつも迷ってんだな。
さっきの言葉はただ事実を言っただけだ。
だから迷いなく言えたんだろ。
怖がっていた俺が変じゃねぇか。
「でも・・それでもいいと思うの。」
「・・・何で?」
「が幸せそうだから。」
「はあ?」
おかしいだろ?
がいいならはいい?
自分のこと忘れられてるんだろ?
大好きな奴に忘れられんのはイヤだろ。
俺はを敵にしてることも忘れて叫んだ。
「お前はそれでいいのかよっ!」
「・・・。」
「はお前の信友なんだろっ!?悔しくねぇのかよ!?哀しくねぇのかよ!?」
「悔しいし、哀しいわっ!でも今は割り切らなきゃ何もできないのっ!」
「割り切る必要なんてねぇだろ!?」
「今そんな事を考えてたら誰も救えないっ!」
「そんな事・・・?の記憶喪失は『そんな事』なのかよっ!?」
一番お前が気にしてることだと思った。
でもそれは違ったらしい。
こいつはテニス部を救うことが一番大切なんだ。
自分のことは後にして。
・・・つかなんで俺はあいつのことをこんなに気にしてんだよ!?
もうどうでもよくなってきた。
俺は寺の方へ足を向ける。
「あ・・・岳人!」
「何だよ?」
「その・・・ありがとう。」
「・・・!」
俺は・・・間違ってるのか?
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