ねぇ咲人
遅れてごめんね
でも 来たよ





信じるもの、その先に-37-





今日は部活も学校もない。

だから私はここにいる。

都内の咲人のお墓に。

咲人の好きなスイトピーを持って。


「久しぶりだね、咲人。」


本当はとか連れてきたかったんだけど・・・。

皆に咲人のことは言ってないから。

ごめんね、咲人。

スイトピーをそっと置いてそこにしゃがみこむ。

咲人には何も隠さず言える。

だって・・・お兄ちゃんだもの。

幼馴染だもの。

そして大切な人だから。


「私、しっかり約束守ってるよ。

休まずに学校行ってるよ。

皆に冷たい目で見られるのは辛いけど・・・。

でもやっぱり皆を救いたいの。

皆を信じているから。

咲人、がね、私のことだけ忘れちゃったの。

他のみんなの事はおぼえているのに・・・。」


思っていること全て話した。

美鈴のことも

のことも

立海のことも

青学のことも

のことも

ジロちゃんのことも

2年生のことも

全て。


「え・・・?」


いつの間に泣いてたんだろう。

頬が濡れている。

泣いてることに気付くと涙が止まらなくなってきた。


「…うっ…ひっく…うっ…。」


やっぱり辛いよ。

少しずつ私のことわかってくれる人が増えているけど・・・。

一番信じたい人たちがわかってくれないっ!

景吾も侑士も岳人も亮も私を見てくれない・・・。

私をわかってくれない・・・。


「でもね・・・咲人。私逃げる気も流す気もないの。皆を救いたいから。」


何から救うのかと聞かれたら答えられないかもしれない。

だけど救いたいの。

盲目的な彼らを。

そして美鈴を。

信じたい人だから。

そして・・・救わなくちゃいけない人だと思うから。

私は生徒手帳から2枚の写真を取り出した。


「・・・覚えてる?皆で撮ったんだよって見せた写真。

チョタ、亮、侑士、岳人、ジロちゃん、ムネ、景吾、若、萩、と撮った写真。

それからね、この前撮ったの。

リョーマ、、国光、周助、桃、薫、タカさん、秀一郎。それから咲人の知ってる英二。

青学の皆は私のことをわかっていてくれる。だからこうして笑えるの。

でもね、私が一番笑っていたいのは氷帝の皆の側なの。あ、別に青学の皆が嫌なんじゃないよ。

ただずっと側にいたのが氷帝だから・・・・。」


そっと写真を咲人の側におく。

咲人が生きてたら何て言うだろうね。

やめろ、なんて言わないよね。

だって咲人は私が決めたことを尊重してくれるから。

頑張れ、とも言わないね。

そんなに無責任じゃないもの。

ただ黙って側にいてくれるかな。

必要なときには声をかけてくれて手を差し伸べてくれる。

それが咲人だもんね。


「大丈夫。私は独りじゃないから。」


もジロちゃんもいる。

チョタや若、青学の皆だっている。

私を信じてくれる人がいるから。


「・・・ちゃん?」

「おばさん・・・!?」


振り向けばそこに立っていたのは咲人のお母さんと・・・


・・・。」

「さっきそこで会ってね。ちゃん、今日来たいって言って病院から出てきたんですって。」

、咲人君と知り合いなの?」

・・・ちゃん?」


驚いた顔でを見るおばさん。

私は人差し指を口にあてた。

あとで話すから・・・。


「うん。咲人とは幼馴染なんだ。」


少しだけ笑って立ち上がった。

もおばさんもスイトピーを持っている。

私がそこを退けば、2人が花を置いて手を合わせた。

咲人、これが今のだよ。

私を忘れてしまった

でも私の大切な


「咲人、よかったわね。ちゃんもちゃんも来てくれて。

スイトピーもいっぱいね。・・・でも少し2人にわけてもいい?」

「え・・・?」

「知ってるかしら?スイトピーの花言葉を。」

「スイトピーの・・・・?」


おばさんはゆっくりうなずいた。

スイトピー・・・何だっけ。


「いろいろあるわ。門出・繊細・・・。それから2人へのメッセージ。

ちゃんには優美。ちゃんには優しい思い出。そして・・・。」

「私を覚えてください。」


私の言葉におばさんはうなずく。

咲人らしいね。

私はスイトピーを1本とって口づけた。


「おばさん、大丈夫。私は咲人を覚えてるから。忘れたことはないよ。」


にっこりと微笑むおばさんに私はひとつうなずく。

それから少しして2人は帰っていった。

は3〜4本のスイトピーを持って。


・・・スイトピーの花言葉聞いてから喋らなかったね。」


再びしゃがみこむ。

優しい思い出・・・。

私と咲人の思い出は優しいものだよ。

温かくて・・・優しい。


には優しい思い出をつくって欲しいんだ。』


あ・・・。

この言葉、そういうことだったんだ。

だから私にスイトピーをいつもくれたんだね。


「ありがと、咲人。また来るね。」


今度は皆をつれて・・・。









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