ためらっているのは

悩んでいる証拠

人間らしい証拠





信じるもの、その先に-31-





「真田さん、柳さん・・・聞かせてください。そのために来たのでしょう?」


精市のベッドの淵に腰掛ける。

立っているのが辛くなったから。


「調子悪いの?」

「ちょっとね。でも気にしないで。」


今はそんなことを心配している場合じゃない。

2人が口を開くのを待つ。


「言いたくないというのなら私はここを出ます。無駄ですから。」


冷たい言葉。

でもどうしても聞きたいの。

あなたたちの考えを。


「答を出すことから逃げている。」

「それが・・・真田さんの答?」

「あぁ、そうだ。・・・・名で呼んでくれないか?。」


揺るぎのない目。

私はこの目に弱い。

にっこりと微笑んで返す。


「答が出すことが怖いのね、弦一郎。」

「怖い・・・?」

「違うの?」

「いや。」


弦一郎もまた笑った。

彼は・・・まだ迷ってる。

でも迷いは小さい。

すぐに迷いはなくなるでしょう。

私は柳さんを見つめた。

最後に聞く相手。


、俺は答など持っていない。」

「・・・何のためにここへ来た?」


一気に冷える精市の目。

私は先を促す。


「聞きたいことがある。」

「聞きたい・・・こと?答えられないものもあるわよ?」

「構わない。」


咲人のことは一切答えられない。

というよりも答えたくない。

他にもあるだろうけど・・・。


「お前は藍川を虐めてないだろう?」

「もちろん。」

「なのに藍川は虐められた、と言っている。この矛盾は何だ?」


根源か・・・。

私と美鈴の溝、というべきかしら?

今の状況の原因。

答えられないことじゃない。

でも・・・上手くいえない。


「何て言えばいいのかよくわからないけど・・・。話を聞いてくれなかったの。」

「跡部たちが、か?」

「えぇ。違う・・・って言ったんだけど、彼等は聞いてくれなかったの。私の言葉を信じてくれなかった。」

「そうか。藍川の捏造話ということだな。」

「そういうことになるかな。」


私は否定した。

そのとき私を信じてくれたのはジロちゃんだけ。

表には出さなかったけど若もそうだったかもしれない。


「ただ美鈴がそう言っただけではここまではならなかったと思う。これは・・・の私刑と重なりすぎたの。・・・偶然ではないでしょうね。」

「藍川の狙い・・・か。」

「それしかないじゃろな。」

「・・・それだけ?」

「いや。」

「・・・咲人のことは言わないわ。」


恐らく彼は聞いてくるでしょう。

咲人のことを。

だから先に言っておく。

一切答えない、と。


「・・・残念だ。」

「答えられないの。自分を保てる自信がないから。」


いつか・・・。

いつか話すからそれまでは待ってほしい。


「そうか。」

「・・・で、どうするの?」

「俺は事実を知りたい。の味方ではいる。だが・・・。」

「傍観者・・・そういうことじゃろ?」

「あぁ。」


貞治の言うとおりね。

蓮二はあえて選んだ。

知ってて・・・尚、事実を知るために傍観者という立場を選ぶ。


「それがあなたの答ならそれで構わないわ。」


私も事実が知りたいから。

雅治、比呂士、弦一郎に伝えなくちゃ。

何かしたい、そう言った彼らに。


「何かしたい・・・そう言ったね、あなたたちは。」

「あぁ。何か出来ないか?」


青学の皆には言ってないな・・・。

でも彼等はわかっているでしょう。

昨日、咲人の話をしていたのだから。


「別に何かして欲しいなんて思わない。」

「側にいればいいのかい?」

「あなたたちはわかっているでしょう?逃げてはいけないという事が。」


側にいてほしい。

私に手を差し伸べて欲しい。

でも、それを言えば私はきっとあなたたちに縋るだろうから。

だから言わない。


「・・・あとお願いがあるの。」

「何だ?」

「ここにいない彼等には何も言わないで欲しいの。」


彼らは自分で考えられない人じゃないから。

自分で考えなきゃいけないから。


「わかっています。私たちはそのつもりですから。」

「・・・・ありがとう。」


少しずつ私を信じてくれる人が増えてきた。

すごく嬉しい。

でも・・・私自身よくわからない。

何が事実で何が嘘なのか・・・。

ひとつずつ探さなくちゃね・・・。









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