ただ救いたい

そう思うのはダメ?

綺麗事なの?





信じるもの、その先に-22-





バシャッ


「・・・!」


上から水が降ってきた。

それもバケツをひっくり返したかのように。


「クスッ・・・・。」


笑い声が聞こえる。

人為的・・・か。

ドリンクは無事。

ふたを閉めておいてよかった。

制服・・・・濡れないようにしてたのに。


「届けなきゃ・・・・。」


濡れたまま私はコートに行く。

人為的でも・・・何でもいい。

それがその人たちなんだから。


先輩。」

「・・・若。」


ゆっくりと振り返る。

近づいてくる若に私は声をかけた。

恐れないようにして。


「どうしたの?」

「誰にやられたんですか?」

「え・・・?」


私を責めるかと思った。

そうじゃなければ大丈夫か、と聞いてくると思った。

でも彼は・・・誰に?と聞いた。

同情でもない、嫌味でもない。


「・・・わからないわ。」

「本当ですか?」

「うん・・・・。ドリンクを作ってたら上から降ってきたの。」

「そうですか。」


若は手にしていたタオルを私の頭にのせた。


「風邪、ひかないようにしてください。」

「・・・何で・・・?」


わからない。

何故そうするの?


「何で・・・私に・・・?」

「俺は見たものしか信じません。」

「だから・・・?」

「はい。それに藍川はずっと怪しいと思っていましたから。」

「何故?」


私は強がりな自分を見せなかった。

否、できなかった。

あまりにも突然で。

あまりにも驚いて。


先輩がイジめるような人じゃない、とわかっています。」


私をわかってくれる・・・?

私を認めてくれる・・・?

私の言葉を聞いてくれる・・・?


「私を信じてくれる・・・?」

「はい。今まですみませんでした。」


若はスッと頭を下げた。


「何で謝るの?」


若は何もしてない。

ただ見ていただけ。

そして、若は自分の信じていた道を歩んでいただけ。


「自分が悪い・・・と思ったからです。」

「え・・?」

「悪いと思ったら謝るのは当たり前でしょう?」


若は悪いと思った・・・?

だから謝ったの・・・?

だったら、頷くしかないじゃない。


「私は許すとか許さないとか言わない。わからないもの。」

「そうですか。」

「悪いと思ったから謝る・・・ね。私には思いつかなかった。」


にっこりと微笑んだ。

私は信じるものの違いで起こるものだ、と思っていた。

だから謝る必要なんてない、と。


「でもね、若。覚悟・・・ある?」


あまり使いたくない言葉だけど・・・。


「ジロちゃんやチョタには言ってないんだけど・・・下剋上じゃないよ?」


景吾や侑士を敵に回すことになる。

学校の皆を敵に回すことになる。

責められても仕方ない。


「殴られたり、傷つけられたりしても、仕方ないよ?」

「大丈夫です。俺は本当のこと、わかっていますから。」

「そう・・。」


一瞬、若とジロちゃんが被って見えた。


『俺は真実を知っているから。突き放さない。』


同じような温かい言葉。

びっくりしたけど・・・やっぱり嬉しかった。

受け入れてもらったことが。


「2年生は・・・冷静だね。皆、美鈴もも私のせいだ・・・って信じているのに。冷静になって私を見てくれる。」

「一番しっかりしているのは先輩でしょう。くだらないとか言わず、逃げもしない。向き合って救おうとしてるじゃないですか。」

「私・・・・?」

「はい。」

「・・・ありがとう。」


しっかりしなきゃいけない・・・ってずっと思ってた。

だから美鈴や侑士たちの前では強がっている私でいた。

迷っているチョタや立海の皆の前でも。

弱い私だと救えないから・・・。


「・・・朝練、行っておいで。」

「はい。」

「それと、タオルありがとう。」


にっこり笑って私は水道の方へ向かう。


「へぇ・・・味方が増えたんですね。」


強い声。

私は振り返らずに答える。


「私をわかってくれる人・・・よ。」

「それを味方って言うんですよ。」

「・・・じゃぁ敵って誰?」


私は振り返って真っ直ぐに美鈴を見つめた。

美鈴の敵は私なの?

私の敵は・・・わからない。

虐めというものそのものかもしれない。

だけど、美鈴が敵じゃないことは確か。

美鈴は当たり前のように、そして挑戦的に答えた。


「私の敵はあなたですよ、。」









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