大丈夫
私は一人じゃない
だから・・・大丈夫
信じるもの、その先に-21-
あれから私は学校に戻らなかった。
そして今日学校へ行く。
また眼鏡をかけて。
ありがとう、昨日の私。
強い私。
だけど学校は怖いの。
皆の瞳を見たくないの。
「・・・・いってきます、咲人。」
日に日に私の傷は増えていく。
身体の傷も、
心の傷も。
癒えてはくるけれど、増えるほうが早い。
「痛い・・・ね。」
呟きは風の中に消えた。
私は1人ポツポツと歩く。
時折誰かにぶつかられながら。
「っ・・・気をつけろ!」
「・・・。」
「・・・ちっ、かよ。」
ぶつかられて舌打ちされて、去っていく。
これの繰り返し。
学校に着くときにはもうどこかに擦り傷が。
「ちゃーん!」
「おはよう、ジロちゃん。」
「血でてるよ・・・?」
「大丈夫。」
ジロちゃんが外にいる。
ということは中には皆がいる・・・か。
消毒しようと思ったのに・・・。
「・・・先輩・・・?」
後ろを振り返る。
そこにいたのは銀髪の長身。
チョタ・・・。
驚きを抑えてにっこりと微笑む。
「おはよう、チョタ。」
「おはようございます。」
チョタも微笑んだ。
あれから・・・美鈴が来てから私に笑いかけてくれるテニス部の人はこれで2人目。
ジロちゃんとチョタだけ。
「答・・・出たの?」
チョタは首を横に振る。
まぁ・・・すぐに出ることじゃないからね。
「俺は・・・わかりません。でもあれから考えたんです。見てきたんです。」
「何を?」
「美鈴のことと先輩のことを。」
「そう・・・・。」
「美鈴は入部した次の日にはケガをしていました。」
チョタはその日のことを全て教えてくれた。
ケガをしたこと、
それを私がしたと言ったこと、
皆はそれを信じ、怒りを覚えたこと、
全て。
「皆は・・・それが正しいと思っているのでしょう?」
「信じる道を行っている・・・・ですか?」
「うん・・・・。それが皆の信じる道。」
私の信じる道、ジロちゃんの信じる道。
それが少ない人数だけどとても強い意志がある。
美鈴の信じる道、景吾の信じる道、侑士の信じる道・・・・。
それが大人数の考えで弱い意志。
なにが真実なのかな・・・?
ただわかるのは私は美鈴には何もしていないということ。
それが私の知っている真実。
「チョタはそのとき私が許せなかったのでしょう?」
「はい。」
「今は・・・・どう思う?」
「おかしいな・・・と思います。先輩がしたとは思えません。」
「美鈴が自分でした・・・と?」
そうだとしたら、それはとても恐ろしいこと。
だけど・・・美鈴はするわ。
自分のために・・・。
「俺は・・・ジロー先輩みたいに行動できないかもしれません。」
「そう・・。」
「答はありません。でも・・・俺は先輩のほうが正しい気がします。」
「・・・!」
「それが俺の今の信じる道・・・です。」
チョタは吹っ切れるように笑った。
瞳は・・・しっかりしている。
決して強くはないけれど、揺れてはいない。
ジロちゃんとは違うけど、ほっとする瞳。
私も返すように笑った。
学校で心から笑えたのはたち以外では久々だね。
ガチャ
「よぅ、長太郎・・・っ!?」
「宍戸さん・・・!?」
ヤバイところ見られたな・・・。
内心顔をしかめつつ平常を保つ。
「長太郎に何した?」
「別に、何も。ただ・・・話していただけ。」
私は部室前から離れた。
これ以上あそこにいればチョタに迷惑がかかるから。
制服のままだけれど・・・いっか。
私は水道でドリンクを作り始めた。
制服がぬれないように気をつけながら。
「あ・・・早速やってるんですね。」
「・・・美鈴。」
「おはようございます。クスッ、ご苦労様です。」
嫌味として言う美鈴。
コツコツコツ・・・・
部室のほうから聞こえる足音。
皆が・・・来た。
「あら・・・来ちゃった。じゃぁね。」
美鈴はクスリと笑って去った。
何かをたくらんでいるような笑み。
ふぅ・・・と息をついて私は再びドリンクを作り始めた。
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