歩むべき道、
それは――――
決して一つじゃない。
信じるもの、その先に-10-
「っ・・・!」
「ガマンして?消毒してるだけだから。」
傷にしみる。
今座ってるソファ。
これは少し前までが座っていたもの。
「行かなきゃね・・・。」
「どこに?」
「のところ。まだ一度も言ってないの。」
「そーだね。」
きっと・・・他の皆は行ったのだろう。
そして話したのだろう。
美鈴のことを。
私のことを。
「怖い?」
「ううん。はきっと私を信じてくれるだろうから。」
ずっと一緒にいるだもん。
信じてくれる。
コンコン
「誰・・・?」
入ってきたのは長身で銀髪の後輩。
鳳長太郎だった。
表情は何か思いつめている。
「長太郎、何しに来たの?」
ジロちゃんの声は冷たかった。
チョタを警戒している。
私は反対にふっと笑みを浮かべた。
今のこの子は何もしない。
何もできない。
「ジロちゃん、大丈夫。今のチョタは何もしない。」
「・・・そーなの?」
「えぇ。あんな表情してる人が人を殴れる?」
哀しい表情で
辛い表情で
何かに迷っている表情。
「先輩、お話いいですか?」
「いいよ。こっちおいで。」
チョタは私の向かい側のソファに座る。
同時にジロちゃんは立ち上がった。
「俺、中庭で寝るC。また呼びに来て。」
「んー。」
ジロちゃんがいなくなって部室は静寂に包まれる。
ただカチカチと時が刻まれる音がするだけ。
口を開いたのはチョタ。
「わからないんです、俺・・・。」
「この問題が?」
「はい。何が正しくて何が違うんですか・・・?」
「チョタは今何が正しいと思う?」
聞いているのはチョタの信実。
それは別に真実じゃなくてもいい。
今は真実を知るべきではない。
「俺は・・・美鈴の言葉が正しいと思ってました。でも・・・!」
「そう。」
「え・・・?」
「私は美鈴の言ったことを知らない。別に知ろうとも思わない。」
チョタに答えはあげない。
自分で出さなきゃいけないから。
だけど、ヒントをあげることはできる。
どの答えにでも辿り着くヒントを。
「美鈴が正しい。それがチョタの今の信実。」
「信・・・実・・・?」
「えぇ、信実。信実は真実だとは限らない。」
「じゃぁ、真実を・・・教えてください!」
私は首を横に振る。
「今は知るべきじゃないわ。知りたいなら見つけなさい。自分の力で。」
「いつか・・・先輩は話してくれますか?」
「時が来れば、ね。」
私は微笑んだ。
美鈴は愛されたいと願っているはず。
その方法がこうなだけ。
そんな美鈴を救わなきゃいけない。
今はそのために耐えるとき。
真実を知るべきじゃない。
そのときがくれば全てを話そう。
私の『真実』を。
それまで――――。
ううん、違う。
チョタの『真実』がでるまで。
「今は、チョタの信じる道を歩みなさい。それが真実じゃないとしても。」
言葉が響いた。
部室という空間に。
私の心に。
強がっている私の言葉は自分の心に響く。
自分に対して言っているようなことだから。
「自分の信じる道を行く・・・・。」
「そう、Going My Wayよ。困難でも信じる道を行きなさい。」
「・・・はい!」
チョタは笑っていた。
きっと答えはでていないだろう。
それでも笑っているのは・・・答えまでの道をつくることができたから、かな?
「練習、戻ったら?私も仕事しなきゃいけないし。」
「はい。」
「あ、中庭でジロちゃん起こして連れてってあげて。あと伝言お願いしていい?」
「何ですか?」
「もう大丈夫だから、って。」
「わかりました。」
パタン
部室からチョタが出て行く。
彼が今どちらについても・・・。
私は弱いまま、か・・・。
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