正しい道って何?
真実って何?
わからないのは何故?
信じるもの、その先に-9-
先輩とジロー先輩。
2人の会話をずっと聞いていた。
このままじゃ何もかわらないと思ったから。
「・・・辛い?」
「そうね・・・悲しいって言った方が正しいかも。」
「哀しい、じゃないの?」
「えぇ。そこまで情を入れるほどじゃないの。」
この言葉だけだと先輩は美鈴を虐めたという事を認めている。
だけど、何か違う気がする。
俺は次の言葉を待った。
「ジロちゃん。」
「ん?」
「私、何もしてないよね・・・?美鈴に、皆に。」
「うん。」
あぁ、そうか。
先輩は自分を責めているんですね。
何もしてないのに・・・皆に虐められて。
素直で優しい。
それが自分を責めている。
俺はその場を離れながら思い出した。
-美鈴が入部した次の日-
「うぇっ・・・ひっく・・。」
泣きながら歩いていた美鈴。
先輩たちは皆美鈴のところに集まる。
俺もそこへ行った。
遠くからじゃわからなかったけれど。
頬から、腕から、脚から血が出ていた。
あちらこちらに蚯蚓腫れがある。
「何があった?」
優しく問いかけるのは向日先輩。
「うっ・・・いぇ・・・・なんで・・・もあり・・ません・・・。」
「・・・か?」
びくっと身体を震わせた美鈴。
これで皆が先輩がした、と認識した。
わなわなと震えた拳を握る。
許せない――――。
何もしてない美鈴を傷つけたことが。
「何か言われた?」
「・・・何ではいってき・・・たの・・?あなた・・・必要な・・いって・・・。」
ひどい、ひどすぎる。
2年間見てきた先輩。
優しい人だったのに。
先輩が入院してから変わったみたい。
ショックから丁度入ってきた美鈴を虐めた・・・?
「・・・・許せませんね。」
「あぁ、だが・・・辞めさせるわけにはいかねぇ。」
「なんでや?マネは美鈴1人で十分やろ?」
「監視できる。」
流石跡部部長。
よく考えたことだ。
「そうするか。」
「・・・、いやには何も言わねぇ。じりじり追い詰めてやる。」
ここにいる誰もが先輩に怒りを覚えていた。
「美鈴、保健室行こ。」
「ゆ・・し・・先・・ぱ・・?」
「そのケガ、消毒とかせなあかんで?」
「は・・・い。」
忍足先輩と向日先輩は美鈴と一緒に保健室へ行った。
そこに残った俺たちは静かに怒りを燃やしている。
沈黙を破ったのは跡部部長。
「練習、戻るぞ。」
ついて行くしかなかった。
怒りをボールにぶつける。
何もならないとわかっているのに。
俺は美鈴を守る。
このときはそう決めた。
そう――――先輩の言葉を聞くまでは。
「俺は・・・どうしたらいい・・・!」
あのときと同じように拳を握る。
だがあの時と違うのは怒りで握っているわけではないということ。
美鈴の言葉を信じるか、
2人の先輩の会話を信じるか。
入ってすぐの後輩を信じるか、
2年間一緒の先輩を信じるか。
そんなのははっきりしている。
だけど・・・。
美鈴の言ってるときの表情、仕草が嘘とは思えない。
あのケガだって自分でやったとも思えない。
自分でやるとしたら・・・それは恐ろしいこと。
・・・もし。
もしもあれが美鈴でも先輩でもない、第3者の手によるものだったら?
「・・・わからない。」
答えはわかるのに。
それを決定付けられない。
後一押しするものがない。
俺の足は自然と部室の方へ向かっていた―――――。
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