覚悟はしてた

道が違うことくらい

それが彼女たちの決めた道だから





信じるもの、その先に-47-





食堂に入ってきた朋香ちゃんは酷く怒っていて私をきつく睨んでいる。

胸倉を掴まれ、机の淵に押しつけられた。

その時に蓋をしてなかったドリンクが全てこぼれた。

あぁ…後で作り直さないと。


!?」

「あんた…美鈴に酷いことしたんでしょ!?」


後ろには桜乃ちゃんもいる。

哀しそうな、寂しそうな目。

桜乃ちゃんは…違う…?

話を信じなかった…?


「美鈴、泣いてたわ!あんたに殴られたって言ってたのよ!」

「…小坂田…!」


今にも殴りかかりそうなを手で制し、私は朋香ちゃんに告げる。


「私がしてないって言ったら信じる?」

「信じる訳ないでしょう!?美鈴が泣いてたんだから!」

「朋ちゃん…!」


食堂に来てからずっと黙っていた桜乃ちゃんが初めて口を開いた。

苦しそうに、辛そうに。

哀しそうに、悲しそうに。


「何よ、桜乃。あんたはこいつの味方!?」

「そうじゃないけど…先輩は先輩だよ…?」

「関係ないわっ!美鈴は…友達よっ!?傷つけたのが先輩でも許せるはずないでしょ!?」

「朋…ちゃん…。」


思わず、一歩下退がる彼女。

怒りを露わにして私を睨む朋香ちゃん。

今のこの子に…話しは通じない。


「朋香ちゃん。」

「何よ。」

「それがあなたの道ならそれを突き進みなさい。それが真実じゃないとしても。」

「はぁ?」


あの時部室でチョタにかけた言葉を口にする。

それは朋香ちゃんだけでなく桜乃ちゃんにも。

2人の反応は全く違うもので。

朋香ちゃんは眉を顰め、訳がわからない、という顔をしている。

桜乃ちゃんはハッと何かに気付いた顔になった。

それをちらっと見ると私は朋香ちゃんの手首を掴み、掴んでいる服を離させて、起き上がった。


「訳わかんない。でもあんたが美鈴を虐めたことには変わりないんで、しょ!」


最後の言葉と共に殴りかかってきた朋香ちゃん。

ぎゅっと目を閉じてその衝撃に備えた。

…でもなかなかそれはこない。

痛みも、音も、衝撃も。

目を開けてみると朋香ちゃんの腕は誰かの腕によって止められていた。


「リョーマ…。」

「リョーマ様…!?」

「ねぇ、何やってんの?」


私と朋香ちゃんの間に入ってきたリョーマは朋香ちゃんを睨んでいる。

突然第三者が入ってきたからか、リョーマが来たからかはわからないけど朋香ちゃんは目を見開いていた。


「リョーマ様…!何でこいつを庇うの!?」

「俺はを信じてるから。」

「こいつは美鈴を虐めたのに!?」

「…お前はそれを見たのか?」


しばらく黙っていたがポツリと言った。

流し台に背を預け、冷静に、朋香ちゃんを睨みながら。


さんもこいつの味方!?さんは同じ学校だからわかるでしょう!?美鈴は泣いてるの!」

「泣いたら信じてくれんの?」

「え…?」

「今、ここでが泣いたらお前は信じるのか?」

「信じる訳ないです。」

「理由は?」

「美鈴を虐めたやつのことなんか信じられません。」


あくまでも強気な朋香ちゃん。

私を絶対に信じないという態度。


「…同じじゃない?」

「同じ?」

「そう。もし先にが泣いてたら、小坂田はを信じるんじゃない?」

「…!」

「だから、藍川が先に泣いてたから藍川がいじめられている、なんて理由にはならない。」

「じゃあ…リョーマ様は…。」

「オレは見た…知ってるから。」


朋香ちゃんは言葉を失い、さっきまでの強気な態度も今ではなくなっている。

リョーマも言葉を止めた。

誰も何も口にしない。

私も、も、桜乃ちゃんも、リョーマも、朋香ちゃんも。

時が止まったかのような感覚。

それを破ったのは…私。


「今は…私を信じなくてもいい。朋香やんとは会って少ししか経ってないからわからないしね。」


私はその沈黙を誤魔化すように落ちたボトルを拾う。

でも、それだけ。

私だけが動き、他の皆は止まっていた。


「…もうすぐ練習が始まるわ。リョーマはコートに行きなさい。」

「…。」

「リョーマ。」

「…わかった。」


渋々と出て行こうとするリョーマ。

一瞬だけ朋香ちゃんを睨みながら。

続いてボトルを拾い私の横に来る

桜乃ちゃんとも何も言わない。

でも私もも何も言わない。

何も言わずにドリンクを作る。

また、沈黙。

さっきと違うのは私とが作業している音がしていること。


「…あのぉ…。」


また新しい声。

さっきまで話題になっていた、その本人。


「美鈴…!」


大人しめに、少し怯えたように入ってきた美鈴に朋香ちゃんは駆け寄る。

心配そうな顔の朋香ちゃんを不安そうな顔で見る桜乃ちゃん。

桜乃ちゃんは…どうなんだろう…?


「大丈夫?」

「うん…。あの…一度全員集合するからロビーに集まれって…景吾先輩が…。」

「ありがとう。すぐ行くわ。」


ペコリと一礼して走って行った美鈴。

それを追いかける朋香ちゃん。


「美鈴…!桜乃、行くわよ!」

「うん…。」


言葉は返すけど動かない桜乃ちゃん。

何か言いたそうで言えない、という表情。


、行こう。」

「えぇ。…桜乃ちゃん、行きましょう?話は歩きながら聞くわ。」

「…はい。」



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